琉球王朝時代から受け継がれる沖縄の伝統的な歌舞劇「組踊」を映像化した『シネマ組踊 孝行の巻』の東京公開が決まりました。
(2023年1月28日から渋谷ユーロスペースにて一週間)
監督を務めた宮平貴子さんのインタビューと合わせてその魅力をご紹介します。
(インタビュアー・来間祐一郎)
<ご案内>
「シネマ組踊 孝行の巻」とは
組踊の良さが分からなかった。 「喋り」は法事のお経みたいで眠いし、 「顔」は無表情で塩対応だし、 「歩く」スピードはC3POぐらい遅いし・・・。 この映画が観方を変えた! 飽きさせないカメラワーク。様式美のを魅せる全体の画。 役者の感情では表情に寄り、客と心情を共感させる。 丁寧な字幕付きで物語の世界にどんどん入り込む。 琉球王朝時代、「組踊」が最先端のエンタメなのだと実感する。 「食わず嫌い」は良くなかった。 食べてわかる「人を楽しませる気持ち」は過去も現在も変わらない。
照屋年之(映画監督 /ガレッジセール・ゴリ)
微かに憶えのある組踊の音やリズムは沖縄の海や空や花の色を想わせた。置き去りにしてきた何かがあるとして、まだ遅くはない。そう感じた。ひっそりと、脈々と、堂々と褪せることのない鮮やかな文化に今、触れることが叶う。
Cocco(シンガーソングライター)
なんと美しい!「シネマ組踊〜孝行の巻〜」を観た。切なくも余りの素晴らしい演者による組踊と、その魅力を余すところなく収めた宮平監督の映像の完成度に、一瞬も目を離すことなく釘付けになりました。300年前この組踊を創作した玉城朝薫氏に心から震え、本土の能とはまた違う繊細で人間味漂う洗練された沖縄伝統の世界に心酔しました。これからも組踊の真髄を伝え続けてください。
宮本亞門
参照:「シネマ組踊 孝行の巻」公式ページ(KUKURU VISION)
「組踊」とは琉球王国の時代から約300年間受け継がれる歌舞劇です。
能や人形浄瑠璃などの大和芸能の要素を取り入れ、琉球古語によるセリフ、琉球舞踊、琉球音楽、琉球の伝説や故事を用いてストーリー性を持たせたものです。
1718年、躍奉行(おどりぶぎょう、冊封使をもてなす宴で音楽や舞踊などを担当する役職)に任命された玉城朝薫によって創始され、代表的な五作品、朝薫五番を始め約70作があります。
組踊は国の重要無形文化財であり、ユネスコの無形文化遺産である「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」にも登録されています。
そして「シネマ組踊」とはこの組踊を新しい切り口で映像化するプロジェクトです。
舞台では時に見えづらい役者の繊細な表情、演奏者の音楽、流麗なセリフ回し、丁寧な解説などを交え、組踊の魅力をより深くわかりやすく伝えています。
宮平貴子監督インタビュー
今作で監督を務めたのは「アンを探して」でシンガポールの新人映画際(AFFF)で邦人初のグランプリ・監督賞を受賞した沖縄県出身の宮平貴子さんです。
宮平さんに『シネマ組踊 孝行の巻』の制作経緯と魅力についてお話を伺いました。
制作を通じて自覚した「ウチナーンチュの血」
ーまず今作で監督を務めた経緯を教えてください
2021年3月頃に、過去に映画の現場でご一緒した横澤匡広氏から「組踊の映画の監督をしてみませんか?」とお話をいただきました。横澤氏がシネマ組踊に携わった経験があり、過去2作で舞台のプロデュースをされた大野順美氏と共同プロデュースでその第3弾をやりたいと。
ただ正直それまで私は組踊をあまり知らなかったんです。沖縄に生まれ育ってもちろん名称を知ってはいるけど、三線や琉球舞踊にさえほぼ触れたことがない。
琉球の古典芸能をどこか遠い存在に感じてました。なので最初は断ることも考えました。しかし東京出身で組踊好きが高じて沖縄に移住し伝統芸能の舞台制作を行っている大野プロデューサーの組踊への情熱はすごかった。「これほどまでに人を夢中にしてる組踊。まず自分でちゃんと見てから決めよう」と思い、その5月に玉城朝薫の朝薫五番のひとつ、『執心鐘入(しゅうしんかねいり)』を実際に劇場に観に行きました。
「自分で観て心が動かなかったら断らなければいけない」、と密かに考えていましたが、これがとても面白かった。
300年も前に作られたのに現代に生きる私が見ても楽しい。「組踊はこんなにもエンターテイメントだったのか」と感動を覚えました。
それから学びを深めていき、監督を引き受けることにしました。
それまでの私は沖縄の文化に深く触れる環境で育ったわけでもなく、方言もそんなに喋れない。海外の監督たちのプロデュースをしながらも彼らの方が詳しく沖縄を知っていて、「私はウチナーンチュと言えるのか」と恥ずかしい気持ちすらありました。
でも実際に制作に携わってみると、例えば琉歌や琉球古語の一定のリズムが日本語よりしっくり来るようになって、「私はウチナーンチュかも」と感じる瞬間がありました。
あとこれは余談ですが『孝行の巻』は編集作業も含めておそらく200回以上は見てますが、毎回不思議と頭や気分が凄くすっきりするんですね。
シネマ組踊の制作を通じて自分の中に流れてるウチナーンチュの血を実感したのは良い経験でしたね。
玉城朝薫ならどう撮るだろう?
ーシネマ組踊の制作にあたって特に意識された点はありますか?
私のこれまでの信条は「自分が観たいものを作る」こと。監督作においては、脚本からキャスティング、編集なども手掛けてきました。
ただ今回は玉城朝薫による物語。大野プロデューサーの采配で出演者の指導は眞境名正憲先生(元・伝統組踊保存会会長)、出演者も素晴らしい役者さんが揃い、スタッフは横澤プロデューサーの人脈から経験豊かなカメラマン、撮影監督が揃った。
「私が観客なら本作を通じて何が見たいか」と考えた時、300年前に玉城朝薫が生み出して現代まで受け継がれる舞台芸術・組踊を何より見たいはずだ、と考えた。
なので「玉城朝薫ならシネマ組踊をどう撮るだろうか?」を常に想像して意識して制作に臨みました。
玉城朝薫は踊奉行の任務についた期間でたった1年ほどで朝薫五番を発表し、その後ビジネスでも成功しており、バイタリティを感じさせる人物です。
『孝行の巻』は朝薫五番の中でも沖縄独特の対句表現が突出して多く、対話シーンが多い物語ですが、姉弟の口論シーンのリズム感・対句表現を多用するなど「玉城朝薫が楽しんで書いたのではないか」という印象が私にはあります。
『孝行の巻』は家族愛がテーマで、幼くして祖父や父を亡くし兄弟もいなかった朝薫の家族への憧れを描いたストーリーという解釈もできると思います。
古典芸能の鑑賞には、もしかしたらそんな想像力は不要だと思う人もいるかもしれません。それでも私たちと同じ、血の通った人間が作り出したものなので、自由な切り口でみることは、許されてもいいと私は思ってます。
映像を編集するうえで大切にしたことは、「舞台芸術を観ている」という実感です。
例えば、舞台を見るとき観客は、基本的に発話する人物に目がいきます。そして演者が動いたらそれを追う。単純なことですが映像作品だからといってそれをあまりに無視すると無意識のストレスになる。
繊細な表情の変化はアップ、クレーンショットなどで魅せるところはみせ、地揺の音楽などもその素晴らしさが伝わるように繊細な音調整で挑むなど、映像だからこそできるアプローチも生かしつつ、なるべく舞台を見ている観客の視点を大事にした構成を意識しました。
ー撮り終えてみて、今作の手応えはいかがですか?
私が組踊の映像作品を手掛けるなんて夢にも思わないような経験でしたが、それでも今作には自信を持っています。
なぜなら本作で組踊の指導を行った眞境名正憲先生にお褒めいただいたからです(笑)。いや、本当に編集は孤独な作業で…仮編集を眞境名正憲先生にみていただく席を設けていただいたのですが、それまでは生きた心地がしなかったです。
その席で「組踊の素晴らしさがとてもよく出てる」とありがたいお言葉をいただきました。
その後、字幕をつける作業でも、最後まで大野プロデューサーの「今の人に伝わるように」という思いを尊重しながら進めました。完成までにも沢山の発見、学びがあり、試行錯誤しながらの制作でしたが、組踊を本気で面白い、素晴らしい舞台の臨場感をそのままに、と考えたのは結果的に良かったと思います。組踊や琉球古典芸能を今の人にわかりやすく伝えるお手伝いはできたのかな、と思います。
人生で一度は必ず組踊に触れてほしい
ー最後に、『シネマ組踊 孝行の巻』に興味を持った皆さんにメッセージをお願いします。
今作は組踊を映像作品にしてよりわかりやすい説明を加え、映画ならではのアングルも使いつつ、観客視点を心がけています。
実際に組踊の舞台を観たような気分になってもらえると思います。
そしてこれは大野プロデューサーの思いでもありますが、沖縄の人、沖縄を愛する人なら人生で必ず一度は組踊に触れてほしい。
とはいっても、いきなり沖縄の国立劇場おきなわへ舞台を観に行くのはハードルが高いですが、この映画がきっかけになればと心から願っています。
ぜひご覧ください!
映画「シネマ組踊 孝行の巻」公開情報
『シネマ組踊 孝行の巻』
公演日時 2023年1月28日(土)~2月3日(金)
場所 渋谷ユーロスペース(渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 3F Googleマップ)
チケット購入 渋谷ユーロスペース店頭、もしくは公式サイトでのオンライン購入