© Naruyasu Nabeshima ©Kateigaho
今回は6月7日~7月31日まで大倉集古館(東京・港区)にて開催される芭蕉布(ばしょうふ)の特別展「芭蕉布ー人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事ー」をご紹介します。
東京の美術館で同規模の芭蕉布の展覧会が行われるのは初とのことです。
琉球舞踊家・赤嶺姉妹による芭蕉布を着用した琉球舞踊公演も予定されており、併催イベントも魅力的な展覧会となっております。
以下、その概要とインタビューをお届けします。
<ご案内>
芭蕉布と人間国宝・平良敏子さんについて
芭蕉布とは亜熱帯を中心に分布する植物・芭蕉からとれる天然繊維を原料とした、琉球王国時代から受け継がれてきた沖縄の代表的織物です。
① 糸芭蕉畑
② 綛
③煮綛芭蕉布 琉装着物「黄地 小鳥 引下 綾中」公益財団法人 日本伝承染織振興会
④芭蕉布 着物「ムチリーくずし」芭蕉布織物工房
⑤芭蕉布 着物「藍コーザー 引下 眉引」個人蔵
⑥芭蕉布 着物「八十八 クヮーサー 花合」芭蕉布織物工房
⑦芭蕉布「ハベル付 藍片筋 胴衣 茶地 裙」芭蕉布織物工房
⑧芭蕉布 着物「紺地 二玉 環掛」公益財団法人 日本伝承染織振興会
写真:©Atsushi Higa_Photo Studio Tsuha
薄くて軽く張りがあり、さらりとした肌触りが特徴で、風をよく通す生地は高温多湿の沖縄の気候にかつては欠かせない衣料でした。
また沖縄特有の力強い色彩、バラエティに富んだ絣柄は民藝運動の主唱者・柳宗悦に「今時こんな美しい布はめったにないのです。いつ見てもこの布ばかりは本物です」と言わしめるほど高い評価を受けてきました。
⑨ 煮綛芭蕉布 裂地「黄地 八十八 クヮーサー 花合」
⑩ 煮綛芭蕉布 裂地「赤地 小鳥 綾中」
⑪ 芭蕉布 着尺 「変わり三段組」
⑫ 芭蕉布 帯地 「藍コーザー アササ」 いずれも芭蕉布織物工房
写真:©Atsushi Higa_Photo Studio Tsuha
そして、第二次世界大戦後に消滅しかけたこの芭蕉布の伝統技法を復活させ現代へつないだのが人間国宝の平良敏子さんです。
平良さんは沖縄北部の小さな村、喜如嘉(きじょか)に工房を設けて魅力的な作品を多く生み出してきました。
そしてこのたび、東京の美術館では初となる芭蕉布の展覧会が、大倉集古館(東京都港区)にて開催されます。
特別展「芭蕉布」への思い
大倉集古館担当学芸員・佐々木智子さんに今回のイベントへの思いを伺いました。
2022年は沖縄の本土復帰50周年であり、そして平良敏子さんも2021年に百寿を迎えられたとのことで、平良さんのこれまでの活動と芭蕉布の魅力を東京でお伝えする良い機会と考え、特別展覧会を開催させていただくこととなりました。
大倉集古館は大倉財閥を創始した大倉喜八郎が長年にわたり収集した古美術品などを保存・展示するために作られた日本で初めての財団法人の私立美術館です。
明治維新の際に国内外に流出しかけた美術品を買い取るなどして蒐集し、ひいては伝統を守る一助となってきました。
平良さんも戦争で失われかけた沖縄染織の伝統技術を復興させ守ってきたということで、その情熱や思いは当館創設の動機にも相通じるものを感じます。
芭蕉布は手作りなので二度と同じものを作れない、またとても緻密な計算で糸芭蕉の栽培から染色、織りまですべて手作りで手間をかけて丁寧に作られた唯一無二の作品です。
東京には「本物」の価値を理解される方がたくさんおられます。これまで芭蕉布を観る機会のなかった方にも、本展で芭蕉布を初めて知る方にもその素晴らしさをより深く知って頂く良い機会になると思います。
今や芭蕉布は生産・流通が限られた貴重な存在で、沖縄県外にて出回ることが多く沖縄の皆さんにも馴染みが薄れつつあるとも聞いております。
この展覧会で芭蕉布の知名度がより高まり、沖縄の皆さんにもその魅力を再確認いただくきっかけになれば幸いです。
作品にまつわる沖縄言葉(うちなーぐち)も伝わりやすく表記するなど、わかりやすい工夫をこらした展覧会、イベントとなっております。ぜひ足をお運び芭蕉布の魅力をご体感ください。
琉球舞踊家・赤嶺奈津子さんのお話
今回のイベントに関連して、6月28日に芭蕉布を着用して琉球舞踊公演を行う琉球舞踊家・赤嶺姉妹の奈津子さんにもお話を伺いました。
ー芭蕉布の着物の魅力、着心地を教えて下さい。
実際に身に纏うと、他の素材にはないハリ感が独特でサラッとしていて着心地が良く踊りやすいです。
繊細な透け感が涼しげで、沖縄の風土を表現するのにふさわしい衣装だと思います。
ー芭蕉布を着る喜びというのはありますか?
芭蕉布は希少価値も高く高価なので、踊り手にとって憧れの衣装です。手に入った時は気が引き締まる思いでした。
芭蕉布を着て踊ることで気持ちの部分でも踊りの表現が豊かになった気がします。
ー東京での芭蕉布展は初と言われています。このたび芭蕉布を身にまとって東京で琉球舞踊公演を行うことへの思い、抱負を教えてください
このような貴重な機会に踊りを披露することができて嬉しいです。
今回は数年前に平良先生の工房にお願いしたものと、お世話になっている80代の方から譲っていただいた二つの芭蕉布を衣装に使用します。
現在ではなかなか手に入らない芭蕉布が、実はお婆ちゃんの古い箪笥(たんす)に入っていた…ということもよく聞く話で、芭蕉布が沖縄の人々の生活と共にあったことを、踊りを通して想像して貰えると嬉しいです。
また、今回の公演では古典舞踊で紅型、雑踊りで芭蕉布を着て踊ります。
色彩鮮やかな紅型、素朴で上品な芭蕉布の対比も楽しんでいただけると思います。
沖縄の伝統芸能になくてはならない芭蕉布の魅力を舞踊家として表現したいと思います!
ー公演に興味を持たれている方へアピールメッセージをひと言お願いします。
大倉集古館の由緒ある空間で、現在活躍する三線奏者の地謡や案内役によるわかりやすい解説と共に琉球芸能を堪能していただけると思います。
※赤嶺姉妹については以下の記事もご参照ください。
イベント情報
特別展 芭蕉布ー人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事ー
【会期】2022年6月7日(火)~7月31日(日)10時~17時(入館16時半まで)
【会場】大倉集古館
【入館料】一般1,300円 大学生・高校生1,000円
【会期中の併催イベント】
ギャラリートーク(満員御礼)
芭蕉布の実物を前にギャラリートークを行います。
日時:6月7日 7月6日 11:00~ 14:00~
DVD特別上映会 芭蕉布ー平良敏子のわざー
芭蕉布の制作工程など、約30分の貴重な映像を上映いたします。
日時:6月21日、6月22日 10:30~16:00
料金:無料
予約不要、但し混雑時には十条制限を行う場合あり
ワークショップ 芭蕉布糸づくり体験(満員御礼)
貴重な糸芭蕉の繊維で伝統技法を体験いただきます。つくった糸はお持ち帰りいただけます。
日時:7月7日(木)①10:30~ ②14:00~
講師:平良美恵子、平良菜緒 定員各回12名(事前申込・先着順)料金8,000円
琉球舞踊の夕べ(満員御礼)
赤嶺姉妹が魅せる琉球舞踊を地謡の生演奏にてお届けします。芭蕉布を身に纏い舞う「むんじゅる」をはじめ沖縄の伝統文化が織りなすひとときをお楽しみください。
日時:6月28日(火)18時30分開場 19時開演
定員:70名(事前申込制、先着順、全席自由)
料金:4000円
※イベント詳細は公式サイトをご覧ください