沖縄の絆は東京でも強く感じます。
そう語るのは三線奏者・アーティストの細川拓実さん。
三線とロックンロールに魅せられ、やがて上京して多様な活動にいたるまで。
東京で生きていくコツ、沖縄を出て改めて感じた「沖縄の絆」とは。
その思いについて教えていただきました。
(インタビュー日:2022年11月)
<ご案内>
音楽・映像など多彩に活動
ー現在のお仕事について教えてください。
音楽活動を中心としたフリーランスとして活動しています。
舞台公演や古典音楽を中心に三線の演奏をするお仕事をする傍らで三線教室も運営しています。
現在は音楽ユニットを2019年に結成して活動しています。
ユニット名は「男弦ダイナマイツ」
こちらも三線にちなんだネーミングですが、特に意味は無いそうです(笑)。その他に音楽制作や映像撮影や制作なども手掛けています。
ー業務の幅がとても広いですね。現在のキャリアにたどり着いた経緯を教えてください。
もともと音楽が好きで中学時代から音楽を仕事にしたいと考えていました。
演奏者がキャリアのスタートですがコロナの影響で活動が出来ない時期が続いたのでYouTubeを通じて発信することになり、撮影・制作も手掛けるようになりました。
そこで得た経験を通じてカメラマン・映像編集のお仕事もいただけるようになりました。
三線とロックンロールに魅せられて
ー音楽を仕事にしたいという目標を叶えられたんですね。学生時代はどのように音楽に関わっていたんですか?
今の活動のベースとなる三線については中学2年生から始めました。現在所属する野村流に入門したのがスタートです。
三線を初めて半年後のコンクールにエントリーして新人賞をいただいて、そこから三線では色々と評価を頂きました。
ただ当時はロックバンドをやりたくて三線にはあまり熱が入っていませんでしたね。
両親がベーシストだったこともあり60年代・70年代の古いロックをずっと聞いて育ったんです。
その影響もあって洋楽にすごく興味があって、将来はニューヨークに住んでロックバンドをやるのが夢でした。
高校卒業後は東京の専門学校でボーカル・ギターコースなどに進学して学びたいと考えていました。
ただ専門学校ってすごくお金はかかるし、東京での生活費もとても高くてなかなかハードルが高い選択肢でした。親にもすごく反対されましたね。
高校時代、三線で色々な賞をいただいていたので、芸大への推薦入学という選択肢がありました。
両親としても「せっかくなら三線を極めなさい」という思いがあったんです。
ただ僕にとってはその4年間がすごくもったいないと思っていました。ロックバンドがやりたいので、芸大進学は回り道に思えたんですよね。
最後まで反抗していましたが結局は折れて入学することにしました。
入学して1年目は自分でも意外なほどに古典にハマっていきました。
レベルの高い環境で楽しくもあったんですが「やっぱり自分は三線じゃなくてロックに行きたい」という思いもずっと燻ぶっていました。
1年生が終わったときに「辞めよう」と決意して色々な人に相談しました。
東京でチャレンジしたいという思いを周りに伝えて周りもすごく後押ししてくれました。
それもあり東京で音楽をやりたいという情熱が燃え上がっていました。
親には最後の最後まで話していなかったんですが、今の気持ちをぶつけたらきっと納得するだろうと考えて両親に話しましたが答えは「No」の一言でした。
そこで僕も一言「Yes」と(笑)。「はい、わかりました」でその話し合いは終わりました。
その後、せめて休学させてくれと頼みました。席は残して、とりあえず1年でも2年でもいいから1回、東京に行かせてくれと言ったんで。
ただそれも絶対させないと言われて「わかりました」って感じでした(笑)。
三線をベースに生きていこう
ーそこからどんなきっかけで上京したんですか?
ロックバンドをやるという憧れはずっと持っていました。
卒業したらニューヨークに行くことを目標にしていましたが、当時英語もしゃべれなくて渡米するお金もなくて、それでまずは上京しました。
東京でお金を貯めて、次のステップとしてニューヨークを考えていました。
東京には今でもお世話になっている小岩の沖縄居酒屋「こだま」があり、マスターにも応援してもらっていたので居場所があると感じて東京を選びました。
こだまでは学生時代からライブを何度かやらせていただいたんです。
卒業前にもライブ行った時に、マスターに「上京しようと思ってます」って言ったら、うちで働けばいいじゃんって言ってくれて。
まあ冗談半分で聞いてたんですけど、心強かったですね。
その後、放送局への内定が決まって上京することになり、その報告をこだまのマスターに電話で伝えたんです。
マスターからは「とりあえずランチ食いに来いよ」って誘ってくれて食べに行きました。
その時改めて「うちで働かないか」と声をかけてくれました。
収入面では放送局の方が全然良かったのですが、ここで働いたらいろんなミュージシャンと出会えるし絶対面白いことがある思って内定を断りました。
こだまで働かせてもらいながら三線演奏も続けて、そこで三線教室も始まり今の活動の基盤が出来ていきました。
ただロックバンドをやりたいという思いが強くて模索する時期でもありました。
上京して3、4年は「もう三線は弾かない」と何度も思いましたが、そのたびに三線の仕事の依頼が入ってくるです。
芸大の先輩からの紹介だったり沖縄関連のイベントだったり色々やらせていただきました。
三線以外のことをやろうとしても三線の道に修正されている感じでした。
三線のお仕事を受ける際、芸大の経歴や実績もありだいたいパスしてすんなり進みました。あの時辞めずに続けていたことが今に繋がっています。
ーコロナによる仕事への影響もあったとのことですが、どのように乗り越えてきたんですか?
コロナの影響で動きたくても動けなかったのが逆に良かったですね。おかげで一度立ち止まってゆっくり考えることができました。
動いている時ってどうしても立ち止まって考えることが出来なかったんです。
強制的にストップされたことで次にチャレンジしたいことが色々と見えてきました。あのとき過ごした時間は非常に重要でしたね。
ー次のチャレンジ、どんなことを考えているんですか?
まず年内に法人を設立する予定です。基本的には現在やっていることを基に法人化する形ですね。
法人化することで信用も個人事業より高くなりますし出来ることも増えると感じています。
助成金などを活用して芸術家の活躍する場を作っていきたいというのが直近の目標ですね。
舞台公演の企画・運営を行い全国の小学校などで学校公演をやりたいです。その中で沖縄の古典音楽を知ってもらう機会も作りたいです。
沖縄のために何かやっていきたいという思いはずっと持っています。「琉球の綾音」もその活動の一環としてライフワークでやっていますね。
「琉球の綾音」とは
琉球古典芸能の若手実演家を中心に2021年から継続的に開催されているシリーズ公演
東京で感じる沖縄の絆
ー細川さんにとって東京はどんなところですか?
東京に出てきてもうすぐ10年になりますが、これまでに本当にたくさんの方々との出会いがありました。
上京したからこそ三線に打ち込めていますし道も開けた感じがあります。
今はすごくやりたいことが出来ていると思いますが、当初はバイトしてやりたいことが副業みたいになっていました。
その割合をどんどん変えていって、やりたいことのみにシフトした感じです。
東京はいろいろな仕事があってそれなりに稼げますし、場所を選ばなければ生活コストもかなり抑えられるので、やりたいことをやるための準備をするには最適だと思います。
やりたいことを実現しやすい環境があるのが東京の良さですかね。
ーこれから上京を考えている島の後輩に向けてメッセージをお願いします。
上京するまで東京に対する怖さがありましたが、色々な人に助けられているのを実感しています。
環境に恵まれたこともありますが、とても良い人ばかりですね。「自分の力で生きているのか?」と思うことがあるくらいです(笑)。
もし知っている人が全くいない中で上京を考えている方がいても安心してください!住んだ場所の近くで沖縄居酒屋を探して飛び込んだら問題解決です(笑)。
そこには沖縄出身者が必ずいますしお店の方も優しい人が多いので、そこからコミュニティが絶対広がります。
沖縄の場合、家族・親戚との距離が近くて困ったことがあれば助けてくれる環境はとても良いと思います。
沖縄に帰省する際は空港に迎えに来てくれたりと絆が強い。東京に来るとそういう助けはなくて自分で生きていかなくてはいけない厳しさもあります。
でもそれをくぐり抜けて東京に住んでいる沖縄の先輩方がたくさんいます。
厳しい環境で生きてきたからこそ、とても優しい人が多いです。
もしかしたら沖縄よりもその絆は強いのかなって思いますし、そういう人たちがいっぱいいるので、大丈夫だと思います。安心して飛び込んできてください。
細川拓実(ほそかわ・たくみ)
1990年兵庫県神戸市生まれ。琉球古典音楽演奏家を基盤に沖縄音楽ユニット「男弦ダイナマイツ」を大城ケンタローと共に結成。ライブ活動やラジオ番組出演、YouTubeチャンネル運営などを中心に活動中。その他、TV音楽番組やTVCM、映画音楽などへの三線奏者としても多方面で活動中。
【男弦ダイナマイツ YouTube】https://www.shimayushi.com/index.shtml
【Instagram】 https://www.instagram.com/takuhosokawa_/
【Facebook】 https://www.facebook.com/takuhosokawa69
細川さん、お話ありがとうございました!
細川さんにお仕事のご相談、ご提案がある方はぜひお問い合わせください。